お父様やお母様が亡くなったとき、またはご自身が亡くなったときに、誰が遺産を相続するのだろう?と思うことがありますよね。
誰にどれくらいの遺産が相続されるのか、どんなケースでは相続できないのか、特定の人に相続させたい・相続させたくない場合はどうすればいいのか、相続放棄するにはどうすればいいのか・・・など、遺産相続に関する疑問はたくさんあると思います。
遺産相続で大切なことは「相続人の優先順位」です。相続人の優先順位を理解すれば、遺産相続についてより深い考え方ができます。
ここでは、相続人の優先順位、法定相続人と法定相続分、相続放棄、遺言がある場合などについて解説します。
目次
相続人の優先順位を知ろう!法律で定められた相続人と相続分は?
誰かが亡くなると、遺産相続が発生します。そして、遺産相続で問題となるのが「誰がどの財産をどれくらい相続するか」になります。
遺産相続には、法律(民法)で定められた「相続人の優先順位」があり、どれくらい相続できるのかという「相続割合」も基本的に決まっています。
遺産相続では、家族・親族の間でトラブルが起こるケースも珍しくありません。遺産相続争いを避けるためにも、ご両親やご自身の生前から、死後に残される財産について考えてみましょう。
ここでは、「法定相続人」と「相続人の優先順位」を解説します。
【相続人の優先順位】法定相続人とは?相続の基礎知識と用語解説
遺産相続では、法律によって定められた「法定相続人」がいます。法定相続人とは遺産相続の対象となる人であり、「被相続人(亡くなった人)」が死亡するまでは「推定相続人」と呼ばれます。
一般的に「相続人」というと「法定相続人」をイメージする方もいるかもしれませんが、厳密的には、法定相続人と相続人には違いがあります。
【法定相続人】・・・民法で定められた、遺産相続の対象者のこと。現実に財産を相続しない人も該当する
【相続人】・・・現実に決定された、遺産相続の権利を持つ人のこと
たとえば、被相続人のお子さん(法定相続人)が相続放棄をした場合、相続権利は次順位に移り、被相続人の父母(法定相続人)が現実の「相続人」になります。
法定相続人は「遺産相続の対象者」、相続人は「現実に相続が決定した人」ということを覚えておきましょう。
【相続人の優先順位】法定相続人は3つの順位で決定!上位から相続
遺産相続には、法律で定められた「相続人の優先順位」があり、上位の人から順番に相続していきます。
ただし、被相続人の配偶者(妻や夫)は「配偶者相続人」となり、必ず相続人になります。ここでいう配偶者とは、入籍しているパートナーのことを指します。内縁の妻や相続時に離婚している場合などは、配偶者相続人になれません。
遺産相続は、亡くなった方の配偶者と血族で受け継ぐことになり、血族の相続人は「相続人の優先順位」で決まります。
相続人の優先順位には「第一順位、第二順位、第三順位」の3つがあり、同じ順位に複数人いる場合は、同順位の全員が相続人になります。
法律で定められた「相続人の優先順位」は、以下のとおりです。
【相続人の優先順位】
【第一順位】・・・直系卑属(子・孫)
【第二順位】・・・直系尊属(父母・祖父母)
【第三順位】・・・兄弟姉妹
先順位に人がいる場合は、後順位の人は相続できません。後順位の人が相続できるケースは、先順位に人がいない場合になります。
たとえば、被相続人に子どもがいない場合は、第二順位の父母または祖父母が相続人になります。そして、被相続人に子どもがいない、父母や祖父母も亡くなっている場合は、第三順位の兄弟姉妹が相続人になります。
別のケースとして、被相続人の子どもが亡くなっており、亡くなった子どもの子(被相続人の孫)がいる場合は、孫が第一順位の相続人になります。また、第一順位と第二順位に人がいない、第三順位の兄弟姉妹も亡くなっている場合は、兄弟姉妹の子ども(被相続人の甥姪)が相続人になります。
このように、被相続人の孫や甥姪などが、相続する予定だった故人(子や兄弟姉妹)の代わりに相続することを「代襲相続」といいます。第一順位の代襲相続は「ひ孫・やしゃご」と何代でも続きますが、第三順位の代襲相続は1代限りとなっています。
遺産相続はご家庭によってさまざまなケースがありますが、遺言がない場合は、配偶者は必ず相続人になること、そして、血族の中で「相続の優先順位」が高い人も相続人になることを覚えておきましょう。
【相続人の優先順位】法定相続人がわからない?このようなケースでは
遺産相続では、法定相続人は誰なのか、わかりにくいケースもあります。たとえば「内縁の妻、養子、孫、祖父母、甥姪、行方不明者」は相続人になれるのだろうか?と疑問に思う方もいますよね。
結論からいうと、内縁の妻は、被相続人の戸籍に入っていないので相続人にはなりません。養子は、被相続人の戸籍に入っているので相続人になります。また、被相続人の孫、祖父母、甥姪も相続人になる可能性があります。
そして、相続人が行方不明者の場合も、相続人になることができます。
行方不明者の相続人がいるときは、家庭裁判所に「不在者財産管理人(※行方不明者の財産管理人)」を選任してもらい、遺産分割などの手続きを行います。
また、行方不明者の相続人がいる場合は、「失踪宣告」の手続きをして相続人から除外することも可能です。
【失踪宣告】・・・不在者・生死不明者が、法律上死亡したものとみなす効果を生じさせる制度
遺産相続では、誰に相続権利があるのか、わかりにくい場合があります。より複雑な遺産相続順位のパターンを知りたいときは、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
【相続人の優先順位】相続できないケースとは?相続廃除と相続欠格
法定相続人でも、遺産を相続できないことがあります。法定相続人が相続できないケースとは、「相続廃除」または「相続欠格」が認められたときです。
「相続廃除」とは、特定の事由がある場合、被相続人が家庭裁判所に請求して、相続人の地位を剥奪することをいいます。相続廃除された相続人は、「廃除の取消」がされるまで相続権利を失います。
相続廃除の事由には、以下のようなものがあります。
●相続人から虐待を受けた
●相続人から重大な侮辱を受けた
●その他の著しい非行が相続人にあった
●相続人が重大な犯罪行為をして有罪判決を受けている
●相続人が被相続人の財産を不当に処分した
●賭博やギャンブルなどを繰り返して作った被相続人の多額な借金を、被相続人に支払わせた
●配偶者(夫・妻)が愛人と同棲、家庭をかえりみない不貞行為があった
●婚姻や縁組が継続しがたい重大な事由がある
そして、相続廃除の方法には「生前排除」と「遺言廃除」の2種類があります。
「生前排除」とは、生前に被相続人が家庭裁判所に「相続人廃除」を申し立てて承認を得る方法です。一方、「遺言廃除」とは、被相続人が遺言を残し、遺言で指定された遺言執行者が被相続人に代わって、家庭裁判所に「相続人廃除」を請求する方法になります。
相続廃除で注意すべきことは、相続廃除の対象となるのは「一部の推定相続人」に限られるということです。
相続廃除の対象となる一部の推定相続人とは「配偶者(夫・妻)、第一順位の直系卑属(子)、第二順位の直系尊属(父母・祖父母)」になります。「第三順位の兄弟姉妹」は、相続廃除の対象になりません。
また、相続廃除された相続人は相続権利を失いますが、孫やひ孫などの代襲相続は起こります。つまり、被相続人の子どもが相続廃除されても、子どもの子(被相続人の孫)は相続することができます。
相続廃除は、特定の推定相続人に相続させたくない場合に有効ですが、相続廃除の対象者が限られること、相続廃除をしても代襲相続が起こることを覚えておきましょう。
法定相続人が相続できないケースには、相続廃除のほかにも「相続欠格」があります。
「相続欠格」とは、相続に関する事由で相続人が犯罪を行った場合などに、相続の資格が剥奪されることをいいます。相続欠格によって相続の資格が奪われると、永遠に相続の権利を失うことになります。
相続欠格では、被相続人の意思に関係なく、相続人の資格が剥奪されます。
相続欠格の事由には、以下のようなものがあります。
●故意に被相続人や先順位・同順位にある相続人を死亡、または死亡させようとして刑に処せられた者
●被相続人が殺害されたことを知りながら告発、または告訴しなかった者(※ただし、その者が是非の弁別がない、または殺害者の配偶者・直系血族であった場合は例外)
●詐欺や脅迫によって、被相続人が相続に関する遺言を作成・撤回・取消・変更することを妨げた者
●詐欺や脅迫によって、被相続人が相続に関する遺言を作成・撤回・取消・変更させた者
●相続に関する被相続人の遺言書を偽造・変造・破棄・隠匿した者
相続廃除と同じように、相続欠格された相続人が相続権利を失っても、孫やひ孫などの代襲相続は起こります。相続廃除と相続欠格では、相続人(本人)だけに相続権利がなくなり、代襲相続は失われないことを覚えておきましょう。
【相続人の優先順位】法定相続人がいないときは?相続人不在の対処法
遺産相続のときに、法定相続人がいないケースもあります。
たとえば「配偶者、子、父母、祖父母、兄弟姉妹、代襲相続人」がいない場合や、法定相続人が全員相続放棄をした場合は、法定相続人がいないことになり、「相続人不在」の状態になります。
相続人不在の状態になると、家庭裁判所で「相続財産管理人」が選任されます。そして、相続財産管理人は相続人や相続債務者を捜索し、一定期間に相続人や相続債務者が現れなかった場合は、相続人のいない財産として国のものになります。
ですが、法定相続人のいない財産が、必ずしも国の財産になるわけではありません。相続人不在の状態が確定したあとで所定の要件・手続きをした場合、被相続人と「特別な関係にあった人(特別縁故者)」は、遺産の一部または全部を取得できることがあります。
「特別縁故者」に該当するケースは、以下のとおりです。
●被相続人と生計を同じくしていた者(※内縁の妻や夫、事実上の養親子など)
●被相続人の療養看護に努めた者(※介護、看護で尽くしてくれた人)
●上記のいずれかに準じて、被相続人と特別の縁故があった者
特別縁故者として承認してもらうためには、相続財産管理人による「相続人捜索の公告」期間の満了後3ヶ月以内(つまり、相続人不在が確定してから3ヶ月以内)に「特別縁故者に対する相続財産分与」を家庭裁判所に申し立てる必要があります。
法定相続人がいない、債権者・受遺者(遺言により財産を受ける人)・特別縁故者への支払いや分与をしても財産が残った場合は、国庫に帰属して国の財産となります。
相続人の優先順位でわかる!法定相続分とは
遺産相続では、法律によって「法定相続分」が定められています。法定相続分とは、法定相続人の取得割合のことであり、誰が相続するかによって割合が異なります。
法定相続人がわかると法定相続分もわかり、「誰がどれくらいの財産を相続できるのか」ということがみえてきます。
遺言がない場合、具体的な相続の内容や金額は、相続人全員の話し合い(遺産分割協議)で決まりますが、基本的には、相続順位と法定相続分を参考にして遺産分割が決定します。
法定相続分は、遺産相続の重要なポイントになりますので、必ず確認しておきましょう。
ここでは、法定相続分の割合、遺留分と遺留分侵害額請求、相続放棄について解説します。
【相続人の優先順位】法定相続分の割合!誰がいくら相続できる?
法定相続分は、「配偶者の有無」と「配偶者と法定相続人の組み合わせ」によって割合が変わります。
法定相続分の割合は、以下のとおりです。
【配偶者がいない】・・・法定相続人の数で、財産を均等割
【配偶者のみ】・・・配偶者の相続分は、全財産
【配偶者と第一順位(子・孫)】・・・配偶者の相続分は1/2、第一順位の相続分は1/2
【配偶者と第二順位(父母・祖父母)】・・・配偶者の相続分は2/3、第二順位の相続分は1/3
【配偶者と第三順位(兄弟姉妹・甥姪)】・・・配偶者の相続分は3/4、第三順位の相続分は1/4
同順位の法定相続人が複数いる場合は、相続分を頭割りで計算します。
たとえば、配偶者と長男・長女が法定相続人の場合は、配偶者の相続分が「1/2」、子ども2人の相続分が「1/2×1/2=1/4ずつ」になります。
また、配偶者と被相続人の両親が法定相続人の場合は、配偶者の相続分は「2/3」、父母2人の相続分は「1/3×1/2=1/6ずつ」になります。
そして、配偶者と被相続人の兄・弟・妹が法定相続人の場合は、配偶者の相続分は「3/4」、兄弟姉妹3人の相続分は「1/4×1/3=1/12ずつ」になります。
このように、遺言書がない場合は、原則的に、法定相続分に則って遺産分割が決まります。法定相続分は「配偶者・子・父母・兄弟姉妹」の順番で「2・2・3・4」という法則で覚えておきましょう。
【相続人の優先順位】遺言があっても侵害できない!相続人の遺留分
被相続人の遺言がある場合、遺産分割方法が変わって、法定相続人が財産を相続できないケースがあります。たとえば、「特定の相続人に全財産を受け継がせる」「親族以外に全財産を遺贈する」といった遺言がある場合は、法定相続人でも財産が相続できないことがあります。
ですが、遺言の有無に関係なく、一定の範囲の法定相続人には、法律によって最低限保障されている遺産の取り分「遺留分」があります。
そして、遺言で遺留分が侵害された場合は、遺贈や贈与で財産を受けた人に対して、「遺留分侵害額請求(旧:遺留分減殺請求)」をして、侵害された遺留分を金銭的に取り戻すことができます。
遺言の内容に納得できないときは、法定相続人の遺留分を確認しましょう。
遺留分の割合は、以下のとおりです。
【相続人が配偶者のみ】・・・遺留分は財産の1/2。配偶者の遺留分は1/2
【相続人が子のみ】・・・遺留分は財産の1/2。子どもの遺留分は1/2
【相続人が配偶者と子】・・・遺留分は財産の1/2。配偶者の遺留分は1/4、子どもの遺留分は1/4
【相続人が配偶者と父母】・・・遺留分は財産の1/2。配偶者の遺留分は2/6、父母の遺留分は1/6
【相続人が父母のみ】・・・遺留分は財産の1/3。父母の遺留分は1/3
遺留分を請求できるのは「被相続人の配偶者、直系卑属(子/胎児含む)、直系尊属(父母)」になります。被相続人の兄弟姉妹には、遺留分がありません。
遺留分には期限があり、遺留分侵害額請求権には時効があります。
遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が「相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時」から1年間行使しないときに、時効消滅となります。また、相続開始から10年経過した場合も、遺留分侵害額請求権は時効消滅します。
遺留分を請求するときは、遺留分侵害額請求権の時効に注意しましょう。
【相続人の優先順位】相続放棄とは?負債を相続したくないときに
遺産相続では、預貯金や不動産といった「プラスの財産」だけでなく、借金や未払金、連帯保証人といった「マイナスの財産」もすべて相続します。プラスの財産だけを相続することはできません。
そのため、被相続人の遺産が、プラスの財産よりもマイナスの財産が多い場合は、相続すると損をしてしまいます。「被相続人の負債を相続したくない・・・」そんなときに役立つのが「相続放棄」です。
相続放棄とは、すべての遺産相続を放棄して、相続人としての地位を失うことです。
家庭裁判所に申し立てて相続放棄が認められると「初めから相続人ではなかった」ことになり、被相続人の全財産を相続できなくなります。
相続放棄のメリットは、家庭裁判所に承認されることで、法律上の法的効果を持つことです。そのため、被相続人に多額の借金などがある場合でも、相続放棄をしていれば、被相続人の債務を相続して返済する義務がなくなり、債権者からの請求を止めることができます。
相続放棄が行われると、相続権は次順位に移ります。相続放棄をした人は「初めから相続人ではなかった」こととして扱われるため、代襲相続は起こりません。
たとえば、配偶者と子どもが法定相続人であり、子どもが相続放棄した場合は、子どもに子(被相続人の孫)がいても、相続権は被相続人の父母に移り、配偶者と被相続人の父母が法定相続人になります。
相続放棄は、借金などの負債を相続するケースでよく利用されます。遺産相続で多額の負債を相続する・相続させる場合は、相続放棄を検討してみましょう。
相続人の優先順位に影響大!被相続人の遺言がある場合
遺産相続において、被相続人の遺言がある場合は、遺言の内容が優先されます。
法律によって法定相続人や法定相続分はある程度決まっていますが、遺言がある場合は、法定相続人や法定相続分が変わることがあります。
遺言がある場合のメリットとデメリットを確認して、遺産相続に役立てましょう。
ここでは、遺言の特徴と法的効力を解説します。
【相続人の優先順位】遺言の効力!相続人や相続分が変わります
「遺言」とは、遺言者の死後、法律上の効果を生じる目的で行う、単独の意思表示になります。
たとえば、「相続人や相続分を指定したい」「特定の相続人を相続対象から除外したい」「親族以外の人に財産を遺贈したい」「特定の団体に財産を寄付したい」・・・といった内容の遺言がある場合は、遺言に則って遺産分割が行われます。
遺言では、以下のようなことができます。
●子の認知
●後見人の指定
●相続人の廃除・廃除取消
●遺贈・寄付行為
●相続分の指定・指定の委託
●遺産分割方法の指定・指定の委託
●遺産分割禁止(※限度は5年)・・・など
このように、法的に有効な遺言があれば、遺産分割方法や相続分を指定したり、相続人を廃除したり、遺贈や寄付をしたりすることができます。
ただし、遺言があった場合でも、法律で定められた「遺留分」は失われませんので、不条理な遺言に納得できないときは「遺留分侵害額請求」で財産を取り戻すことができます。
遺言に法律上の効果を生じさせるためには、一定の方式に則って遺言書を作成する必要があります。遺言書は自作できますが、書き方を間違えると無効になる可能性があるので注意しましょう。
相続人の優先順位を確認して遺産相続対策をしましょう
今回は、相続人の優先順位について解説しました。いかがでしたでしょうか?
遺産相続は、相続人の優先順位を知ることで「誰にどれくらいの財産権利があるのか」がわかります。遺産相続では親族間でトラブルとなるケースも多々ありますので、生前から遺産相続の準備を進めておきましょう。
遺産相続は、法律の専門家にサポートしてもらうと円滑に進みます。遺言書作成は弁護士・司法書士・行政書士、相続税関連は税理士に相談しましょう。