預貯金遺産相続の中でも相続をするまでの手続きに時間と労力がかかるものが、『預貯金、株、不動産』など故人でなければ本来手続きが取れない財産です。

近年では個人情報保護が非常に厳しく、配偶者や家族であっても故人の預貯金を勝手に動かしたりすることはできません。

ここでは預貯金、株、不動産などの相続をする際にどのような手続きが必要で、どのようなトラブルが想定されるのかを詳しく解説していきます。

一番身近な財産、預貯金口座の凍結とは?

故人が亡くなったと金融機関に伝わると、その時点で預貯金口座は凍結してしまいます。

預貯金口座の凍結とは、本人以外が預貯金を引き出すことを防ぐためです。凍結された預貯金の口座は配偶者でも家族でも正式な手続きをせずに凍結の解除をすることはできません。

ではなぜ預貯金口座は凍結されてしまうのでしょうか?
それは、遺産相続に関するトラブルを事前に防ぐためです。

故人の預貯金は全て遺産相続の対象になりますので、配偶者でも家族でも他の法定相続人を無視して預貯金を動かすことはできないのです。

預貯金口座凍結の解除方法とは?

預貯金口座の凍結を解除するにはいくつかの書類と手続きが必要です。

◇預貯金口座の凍結解除に必要な書類
・遺言書(無くても問題ないが、存在する場合は必ず提出する)
・被相続人(故人)の除籍謄本、戸籍謄本
・相続人全員の戸籍謄本
・相続人全員の印鑑証明
※戸籍謄本の代わりに全部事項証明書(出生~死亡まで連続したもの)でもOK

遺言書があり、自筆で作成した遺言書は裁判所から検認を受けているので検認証明書も一緒に提出します。

また、預貯金口座の凍結解除には、被相続人(故人)と相続人全員の戸籍謄本が必要になり、出生~現在の居住地まで途切れていない情報が必要になります。

ある程度若い方でしたら、出生~現在に至るまでの追跡は簡単ですが、高齢の方は出生地が曖昧なことや、役所が所有する当時手書きだった書類に不備があることもあり、戸籍謄本の記載が途中から始まっている場合は、必ず出生の記載がある戸籍謄本を地方自治体から取り寄せる必要があります。

預貯金口座の凍結解除を待てない時はどうする?

相続人全員の戸籍謄本や印鑑証明がどうしても集めることができず、日々の生活費や税金の支払いなどに困窮している場合は、銀行に事情を説明すれば必要な金額だけ、預貯金を引き出すことできる事もあります。

例えば葬儀代は請求書を銀行に持っていけば、葬儀代だけ故人の預貯金口座から引き出すことが可能です。

しかし、『絶対引き出せる』という保証はなく、金融機関によりけりですので、まずは金融機関に問い合わせをしてみましょう。

故人が亡くなる直前に預貯金を引き出すことは可能?

預貯金口座の凍結前であれば、故人の預貯金を引き出すことは可能ですが、あくまではそのお金は故人の財産であり、相続に関わるお金だという事です

例えば、故人の医療費や介護費用に引き出した預金を充てる場合は、故人自身の為に使用するお金なので問題ありませんが、故人の財産で骨董品や宝飾品、不動産や土地などの価値あるものに使用した場合は最終的には遺産相続の評価額に反映されるだけなので、結局は全て自分の物になるわけではありませんし、万が一使い込みをした場合は民法に従いお金を返さなければいけませんし、何よりも相続のトラブルの元になります。

大きなお金が動いた場合は必ず指摘対象になるので、故人の為や生活の困窮の為にお金を使ったという事が分かるように記録をしておきましょう。

故人の預貯金口座から引き出したお金の使い道によっては横領や窃盗、詐欺などの犯罪になりますので、私利私欲のために故人の預貯金を使うのは絶対にやめましょう。

死亡直前に生前贈与をするとどうなるの?

死亡直前と聞くと、亡くなる3日前や1週間前くらいかな?と感じますが相続に関する死亡直前というのは、亡くなる1年~3年前のことを指します。

なぜ、1年~3年という長い期間が設けられているかというと、生前贈与は相続財産を減らすことでの節税対策になるからです。

ですから、生前贈与したうち相続税の計算に含まれるものは『相続人、遺贈をする者に死亡前までの3年間で贈与した財産』になります。

また、死亡の3年以上前に生前贈与されたもの、相続人や指名がある遺贈以外に生前贈与されたものに関しては、相続財産として計算されません。

相続税の法律を逆手に取って、節税対策として相続人ではない孫に生前贈与をするというケースがありますが、万が一孫の親に当たる息子または娘に不幸があった場合は、順当として孫が法定相続人になってしまいますし、死亡直前の期間は1年~3年と言われていますが期間は3年と思っていたほうが安全です。

預貯金に関する相続トラブルを回避するためには?

預貯金に関する相続のトラブルを回避するための一番の解決方法は相続人に対して、どこの金融機関に口座があり、それぞれの口座に何円の預貯金があるのかをエンディングノートや終活ノートに記載しておくことです。

そして、医療費や介護費用など大きなお金を動かすときは、その詳細も可能な限り記録することで、誰かが勝手に故人のお金を使ったのでは?という争いごとを避けることができます。

また、被相続人(故人)が病気で入院や介護施設に入居などで自由に自分で預貯金を動かすことができなくなった時の為に、お金の預け入れや口座を管理してもらう人を決めておくと良いでしょう。

口座の管理を頼まれた相続人が大きなお金を動かす際は、他の相続人に変な誤解を生まないように領収書や請求書を保管しておく、事前に他の相続人に知らせる、相談するといった配慮をすることを忘れないようにしましょう。

専門分野すぎて分からない!株の相続の評価額とは?

相続人が被相続人(故人)から相続する財産の中でも、困惑しやすいのが株に関する取扱いです。

相続人の中に株に詳しい人がいればある程度問題はありませんが、株を所有している、株に興味があるという人以外にとっては専門分野すぎる、全くの未知の世界だと思います。

ですが、株のことに詳しくなくても『株価は変動する』という事はご存じですよね?
では、変動する株価をどの時点で、どのように財産として組み込まれていくのかを詳しく解説していきます。

株を相続するために終活でしておくべきこととは?

株を所有している方はまず、配偶者や家族に株を所有しているという事を伝え、株の銘柄や所有数をエンディングノートや終活ノートに記載をし、相続の時に混乱しないように事前に準備をしてください。

もし、紙の株が出て来た場合は2009年1月5日以降からは全て電子化されているため、紙の株は無効になりますので相続になる前に紙で所有する株がある場合は、早急に電子化をしてください。

相続人が電子化をするにはたくさんの手続きを踏まなければいけないので、家族の大きな負担になります。

もし、株のまま財産として残しておくことが不安な場合は、売りに出して現金化することも1つの方法ですが、株価の状況によっては売りに出すことも難しいこともあると思いますので、株の所有に関する事は詳細をきちんと残しておきましょう。

株を相続するための手続きとは?

被相続人(故人)が所有している株を相続する場合は、取引をしていた証券会社で手続きをします。

手続きの方法は証券会社によって異なるので、株を所有している場合は該当する証券会社に問い合わせをすると良いでしょう。

もし、被相続人の死亡後に紙の株式が見つかった場合は、現在の株は全て電子化されているので、まずは紙の株を電子化する必要があり、本来なら株の所有者である故人が生前に手続きをしておくのが一番なのですが、もし相続人が紙株から電子株に変更する場合は株の信託銀行に関されている特別口座から、証券会社に口座を移管しなければいけません。

口座移管に必要な手続きの書類は、戸籍謄本・遺産分割協議書・印鑑証明書などの書類が必要になり、証券会社に口座の移管をしなければ株の売買をすることはできません。

株の評価額とは?故人から相続する株価の決定はいつ?

株式は『上場株式』、『取引相場のない株式』、『気配相場のある株式』の3種類があり、その中でも上場株式とは金融商品取引所(札幌・東京名古屋・福岡の証券取引所)に上場されている株式を指します。

株価は平日の午前と午後に売買が行われ、売買をされている時間帯は常に株価は変動しています。

常に変動する株価はどの時点で相続される株の価格が決定されるの?と疑問に思いますよね?相続に関する株評価額は次のルールで決定します。

相続される株価の評価額を決定するルール

・原則、相続が開始決定した時点の時価で評価される
・相続開始=被相続人が死亡した日である
・株の評価額は被相続人が死亡した日の終値が評価額になる

株価を評価するには原則以上のルールがありますが、株価は社会情勢によって大きく左右されるため、株価の乱高下が起こる可能性もありますので、評価額の平均をとるために、故人が死亡した日の終値と死亡した月の最終平均額、前月と先々月の毎日の最終価格の平均の4つのうち、最も低い価格が評価額として決定されます。

◇株の評価額の一例(5月1日に死亡した場合)
1. 死亡当日5月1日の終値  1,900円
2. 5月の毎日の終値の平均額 2,000円
3. 4月の毎日の終値の平均額 1,600円
4. 3月の毎日の終値の平均額 1,800円
この様な場合、死亡した5月1日の終値が1,900円だったとしても、最も低い評価額で決定するため、3.の4月の毎日の終値の平均額1,600円が相続の評価額となります。

株の銘柄を複数所有する場合は、各銘柄に対して同じように評価額を確認していきます。上場株式の評価額は各証券取引所の月間相場表で確認することができ、取引していた証券会社残高証明書を発行してもらうことも出来ますので、各証券会社に問い合わせをしてみましょう。

気配相場等がある株式ってなに?

気配相場等がある株とは、以下の3つに該当します
1.登録銘柄:日本証券業協会によって店頭管理銘柄、登録銘柄に指定されている
2.公開途中:株の上場申請、登録銘柄を明らかにした日から登録する前日まで
3.上記以外:1と2以外で国税局長が指定する株

1.登録銘柄の評価額は、上場株式と同じで平均評価の中で一番低い評価額で決定します。
2.公開途中の株は、株の売り出しまたは公募がある場合はその公開価格が評価額となり、公募が無い場合は相続開始前の取引価格を評価します。
3.登録銘柄と公開途中以外に該当する国税局長が指定する株の場合は
【A】相続開始時の取引価格
【B】取引価格と類似した業種批准価格の平均額
のいずれか低い価格が評価額になります。

不動産や土地の相続をするにはどうしたらいいの?

不動産や土地と言っても、借りているのか?貸しているのか?
土地だけなのか建物もセットになっているのかで評価額の計算方法は異なり、不動産や土地菅家の相続は株の相続と同じで素人には少し難しい問題ですので、故人している不動産や土地がどのように評価されるのかを詳しく解説していきます。

◇不動産、土地を相続する際に必要な書類
・相続する不動産の登記簿謄本(法務局で入手可能)
・固定資産評価証明書(不動産の価額を証明します。不動産がある市区町村で入手可能)
・被相続人の出生~死亡までの戸籍謄本
・相続品全員の戸籍謄本と印鑑証明書
・不動産を相続する人の住民票
・遺産分割協議書(不動産の分割をどのように決めたかを証明する書類を自作する)
・委任状(司法書士に委任する場合)
・相続登記の登記申請書
・収入印紙(不動産課税額の1000分の4の登録免許税を納付)

様々な書類がある中で一番重要になるのが『遺産分割協議書』です。

遺産分割協議書は他の相続人と問題なく、遺産の話し合いができ相続に対しての異議申し立てが無いかを証明する書類になります。

また、他の書類に関しても不備や不足があると何度も法務局に行くことになりますので、相続登記には十分に配慮が必要です。

相続した土地の評価の方法とは?

土地を評価して表額を決定するには『路線価、公示価格、固定資産税評価額、売買取引時価格』の4つの方法がありますが、相続税と贈与税を計算する時は、原則として『路線価』を使って評価額を決定します。

路線価とは、国税庁が示す土地の価格(全国の主要市街地の道路)のことで、毎年1月1日が評価する日になっており、8月の上旬ころ価格が公表されます。

この8月上旬に公表される路線価の評価を元に、土地に関する相続税と贈与税の計算をしますので、例えば現金と土地の相続税を比べた場合、土地を売買する時点によっては現金を相続するよりも土地を相続する方が相続税を安くできる場合もありますし、その逆で現金で相続した方が相続税を安くすることができるので、一概にどちらがいいとは言い切れないでしょう。

借地権と土地貸しの相続とは?

借地権とは土地そのものではなく『土地を利用する権利を相続する』ことで、借地に対する評価は国税庁が発表している評価割合を元に計算するので、土地を借りた時点の価格から変動します。

また、土地を所有しておりその土地を貸している場合は、借地権は借主にあるので土地の所有者といえ、借主から土地を取り上げることはできませんし、土地の利用制限がかかるため、土地としての評価額は低くなります。

さらに、土地と合わせて建物も一緒に貸している場合は、借地権、借家権、などの割合を引いて評価額を算出します。

マンション・アパート経営を相続するとは?

故人がマンションやアパート経営をしていて、部屋を貸している場合は、部屋の入居率によって評価額が変わります。

マンション・アパートなどの賃貸物件の総床面積に対して、相続した時点の入居者面積割合を計算して評価額を算出しますが、その算出された割合を『賃貸割合』と言います。

ですから、マンション・アパートなどの賃貸物件は、入居率が悪いほど相続税がかかることになりますので、節税をするには賃貸物件に入居者を増やす、維持をする努力をしなければいけませんので、相続したあとも継続的に維持費がかかることを覚悟しておく必要があります。

遺産相続で一番大変なのは書類集め?!

預貯金口座や株、不動産と土地の相続に関して、いろいろと解説をしてきましたが、全てにおいて共通して言えることは何よりも被相続人と相続人の戸籍謄本などの書類集めが一番苦労する。ということです。

遺産相続に必要な書類として、戸籍謄本、印鑑証明書は必ずと言って良いほどセットになっていますが、提出後は基本的には返却されるので何枚も取り寄せる必要はありませんが、その事実を知らずに各手続きの為に複数の書類をセットで取り寄せてしまうことがあります。

役所での書類発行にはお金がかかるので、無駄な書類=無駄の出費に繋がります。

また、戸籍謄本は出生~現在に至るまでの情報が必要なため、情報を追いかけるだけでも相当な時間を必要としますし、印鑑証明書も相続人全員が相続に関して納得していれば、問題なく入手できますが1人でも相続内容に納得していなければ、遺産相続の手続きをすることは出来ませんし、居場所が分からない相続人がいる可能性もあります。

ですから、遺産相続は書類が全て揃ってしまえば手続きは簡単ですが、何よりも書類を揃えることが一番の難関なのです。

仕事をしながら、家族の介護をしながら全国各地にいる相続人に連絡を取り、書類を集めるのは大変な労力ですので、費用は掛かりますが弁護士や司法書士などの専門家に任せると、書類集めからお手伝いしてくれるので終活の中で事前に相談してみることをお勧めします。