遺産相続で一番避けたいことは、家族や親族が遺産を巡って争い、揉めることです。
遺産相続の争いを回避する一番の解決方法は『遺言書を作成する事』です。
遺言書を作成する以外に遺産相続を円満に進める解決策はないと言っても過言ではありません。
遺言書を作成するにあたっては、いくつかのルールがあり、作成方法を誤ってしまうと、遺言書としての効力は無くなってしまいます。
結果として遺産相続争いの火種となってしまいますので、家族や親族が遺産相続で揉めないために、ここで正しい遺言書の作成方法と遺言書に関するポイントを確認しましょう。
目次
遺言書とは?遺言書を作成する意義と効力とは?
遺言書を残すことは、財産が多いか少ないかは関係ありません。
遺言書とは自身が他界した後、残した財産を誰にどのように分配したいのかしたいのかを伝えるための大切な手段になります。
- 子供がいない場合
- 相続人がいないシングル者やおひとり様
- 家業を継がせたい意志がある
- 財産の中に不動産が含まれている
- 遺産を渡したくない相続人がいる
- 内縁の妻や愛人がいて、認知していない子供がいる
- 内縁の妻や愛人の子供を認知しているが、家族は知らない隠し子がいる
遺言書は自身が他界した後に、家族や親族が遺産を巡る争いをなくすために有効ですし、家族や親族以外に相続をしたいなど自身の考えを伝えるために作成するものですので、財産の有無に関わらず遺言書の作成を前向きに考えましょう。
遺言書が持つ効力とは?
遺言書には遺産相続にあたり8つの効力があります。
- 相続人の排除
遺言者に対して虐待や屈辱的行為などがあった場合に相続人から除外可能 - 相続の分配指定
法定相続の規定分配に関わらず、遺産の分配が指定できる - 遺産の分割方法(分割の禁止も可能)
遺産分割の方法を決定でき、相続開始から5年以内なら分配の禁止も可能遺産相続の争いを避けるための冷却期間として活用することも有効。 - 相続ではなく遺贈すること
法定相続人ではない第三者に遺産を遺贈することが可能(寄付など) - 後見人の指名
故人の子供が未成年の場合、第三者を後見人として指名することができる - 相続した遺産の担保責任の指定
相続したものに欠陥や、他人の物だった場合の担保責任者を指名できる - 内縁の妻、愛人の子供の認知に関すること
隠し子などで未認知の子供がいる場合、遺言書で認知をすることができる - 遺言書の内容を執行する人を指定と委託ができる
名義変更など手続きが必要になった場合の執行人の指名と委託ができる
この様に、遺言書には法的に8つの効力があり遺言書によって故人の遺志のもとに遺産相続を進めることができますが、注意点として遺産の遺留分(法律上保証されている一定の相続財産)は遺言書によっても除外できないと定められています。
遺言書は書き方を1つでも間違えると効力は全て無効になります。
無効となった遺言書は、知る必要が無かった事実だけを知らされるという最悪なケースも想定されるので、遺言書の作成は慎重に行いましょう。
遺言書の種類とメリット、デメリットとは?
遺言書は4つの分類に分かれており、それぞれ書き方や効力がそれぞれ異なります。
遺言書の種類別書き方とそれぞれのメリットとデメリットを確認していきましょう。
自筆証書遺言
自筆証書遺言とは自筆で作成する遺言書を指します。
自筆で遺言書を作成し効力を有効にするには、民法で規定されている6つの条件を満たさなければなりません。
- 遺言内容の全文が自筆であること
- 遺言書を作成した日付を明記すること
- 遺言者の氏名を明記すること
※同一性と判断をすることができれば芸名、ペンネームでもOK - 印鑑または拇印を捺印すること(封筒の綴じ目にも捺印するとなお良い)
- 遺言者は15歳以上であること
- 裁判所の検認をもらうこと
- 印鑑があればいつでも作成可能
- 書き直しや修正がいつでも可能
- 手続きがいらないので大きな費用がかからない
- 書き間違えは無効になる可能性がある
- 代筆や動画などはNG、必ず自筆であること
- 検認前に開封した場合は5万円の過料がある
- 紛失、変造、偽造の危険がある
自筆証書遺言は一番簡単な作成方法で、最も身近な遺言書ですが、規定に従って作成しないと遺言書としても効力が発揮されませんので、自筆で作成する場合には十分に注意しましょう。
家族や親族が注意するポイントとしては、遺言書を発見してもすぐに開封することは厳禁ですので、裁判所の検認がされているかどうか焦らずにまずは家庭裁判所の検認を受けているかの確認をしましょう。
公正証書遺言
公正証書遺言は、遺言者が公証役場の公証人に遺言の内容を口頭で伝えて、公証人と共同で遺言書を作成します。
● 証人を2人選ぶ(未成年、親族、財産の贈与を受けた人は不可)
● 遺言書の作成にかかる費用と必要書類
公正証書遺言を作成するための費用
目的財産の価額 | 1人につきかかる手数料 |
---|---|
100万円まで | 5,000円 |
100万円以上 200万円以下 | 7,000円 |
200万円以上 500万円以下 | 11,000円 |
500万円以上 1,000万円以下 | 17,000円 |
1,000万円以上 3,000万円以下 | 23,000円 |
3,000万円以上 5,000万円以下 | 29,000円 |
5,000万円以上 1億円以下 | 43,000円 |
1億円以上 3億円以下 | 43,000円+超過5,000万円ごとに11,000円追加 |
3億円以上 10億円以下 | 95,000円+超過5,000万円ごとに11,000円追加 |
10億円を超えるもの | 249,000円+超過5,000万円ごとに11,000円追加 |
● 公証人に自宅や病院に来てもらう 日当20,000円
● 紹介してもらった証人の日当 1人あたり5,000円~15,000円ほど
● 病床執務手数料 手数料の50%
● 交通費や郵便、輸送料などの実費
費用は1人につきの金額なので、相続人が増えると費用も増えることになりますので、相続人が4人いてそれぞれに90万円の相続をした場合は、手数料5,000円×4人分=20,000円の計算になります。
事前に相続する金額と人数を確認し、費用の用意をしておきましょう。
● 遺言者と相続人の続柄を示した戸籍謄本
● 不動産が含まれる場合は登記簿謄本、評価証明
● 法定相続人以外に相続する場合、相続人の住民票
- 遺言内容が正確になり、無効になりにくい
- 遺言書を預かってくれるので偽造、変造の心配がない
- 裁判所の検認が不要
- 費用が発生する
- 作成に時間がかかる
- 証人の立ち合いが必要
- 遺言書の作成と内容を知られてしまう
公正証書遺言には必ず証人が2人必要になりますので、遺言の存在や内容を
知られたくない方は友人などに依頼せず、費用は掛かりますが弁護士などの専門家に依頼し、証人になってもらいましょう。
秘密証書遺言
秘密証書遺言は、誰にも遺言の内容を知られたくない時に有効です。
自筆で作成した遺言書を公正役場に持ち込み、本人の遺言であることを明確にすることができ、特に必要な書類はありませんが11,000円の手数料がかかります。
- 自筆証書遺言が本人の遺言書であることを明確にできる
- 遺言内容を誰にも知られることがない
- 自筆証書遺言のため公証人も内容確認ができない
- 家庭裁判所での検認が必要
- 手数料が11,000円かかる
秘密証書遺言は一見とても便利に見えますが、内容は自筆証書遺言と変わりがありません。
手数料を払って、自身の遺言であることを証明してもらうというだけですので、自筆証書遺言を作成する際に起こるデメリットは同じです。
遺言内容を誰にも知られたくないという気持もあるとは思いますが、遺言書は相続人に対して有効でなければ、何の意味もありませんので遺言書の作成は自筆証書遺言か公正証書遺言が良いとされています。
特別方式遺言書
自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言は普通方式の遺言書と呼ばれていますが、緊急時などに作成された特殊な状態にある遺言者が作成する遺言書を特別方式遺言書と言います。
● 一般隔絶地遺言:外界と接触を断たれた状態で警察官1名と証人が1人
● 一般危急時遺言:病気やその他で死の危機がある時、3名以上の証人
● 船舶隔絶地遺言:船舶中で陸地から隔絶されている時、船舶関係者1名と人2名
特別方式遺言書は遺言人が遺言書を作成した後、6ケ月の生存が認められれば遺言書の内容は無効になります。
特別方式遺言書を使用するのは本当に稀なケースですので、一般的には使用することはありませんし、万が一の時に証人を立てて印鑑を押してという作業ができるかは不明ですが、近年の災害発生数や規模を考えると『特別方式遺言というものがある』ということを知識として頭の片隅にいれておくと良いでしょう。
家庭裁判所の検認とは?遺言書の取り扱い方法とは?
自筆証書遺言、秘密証書遺言を作成した場合は家庭裁判所にて遺言書の検認を受けなければいけません。
遺言書の検認とは簡単に説明すると『遺言書が確かに存在している』と家庭裁判所に確認してもらうことです。
- 申立人 (遺言書を発見した相続人、遺言書の保管者)
- 費 用 (遺言書1通につき収入印紙800円)
- 書 類 (検認申立書、遺言者と相続人全員の戸籍謄本)
※遺言者は出生~死亡までが記載された戸籍謄本が必要 - 申立する裁判所(遺言者の最期の住所にある家庭裁判所)
家庭裁判所にて相続人の立ち合いのもと遺言書を開封し、内容を確認することで遺言書の存在を明確にし、偽造や変造を防ぐ事ができます。
また、家庭裁判所の検認が終了すると検認証書が作成され、当日立ち合いができなかった相続人に対して検認手続きが完了したことが通知されます。
遺言書を見つけてしまった!勝手に見ても大丈夫?
もし、自宅などで遺言書を見つけたときは焦って開封せずに遺言者が生前の場合は遺言者に確認を取ること、遺言者が他界している場合は、家庭裁判所の検認が完了していることを確認してください。
検印手続きが済んでいない遺言書は、故人の不動産名義や預貯金の解約などの手続きをすることができません。
家庭裁判所の検認が無くても遺言書は無効にはなりませんが、 不動産などの法的手続きが必要な事項に関しては動くことはできませんし、勝手に遺言書を開封したことにより5万円以下の過料の罰則が発生してしまいます。
知らない人も多い自筆遺言書保管制度とは?
自筆証書遺言が無効になる危険性として、遺言書を自宅に保管することによる変造や偽造がされてしまうことです。
公正証書遺言の場合は公正役場が遺言書を保管してくれますが遺産相続の金額によっては手数料が高額になりますので、自筆証書遺言を自宅で保管する方も多いのです。
実はこれから2020年7月10日から法務局で自筆証書遺言を保管する法務局の自筆証書遺言保管制度が開始されます。
予約をして手数料を支払い法務局に出向き手続きとなりますが、自筆証書遺言の原本を保管するだけではなく、データ化をしてくれて申請すれば閲覧することも可能です。
法務局の遺言書保管に関する手数料一覧
申請・請求者 | 種別 | 手数料 |
---|---|---|
遺言者 | 遺言書の保管申請 | 1件につき 3,900円 |
遺言者・関係相続人等 | 遺言書の閲覧請求(モニター) | 1回につき:1,400円 |
遺言者・関係相続人等 | 遺言書の閲覧請求(原本) | 1回につき:1,700円 |
関係相続人等 | 遺言書情報証明書の交付請求 | 1通につき:1,400円 |
関係相続人等 | 遺言書保管事実証明書の交付請求 | 1通につき:800円 |
遺言者・関係相続人等 | 申請書・撤回書等の閲覧請求 | 申請書または撤回書1つにつき:1,700円 |
まだ始まっていない法令ですが、家庭裁判所の検認は不要と発表されています。
2020年7月10日から開始されますので、まだこれから発表される不透明な部分もありますが、自筆証書遺言の安全な保管場所が1つ増えたことはメリットと言えるでしょう。
勘違いされやすい、遺言書と遺書の違いとは?
遺言書と遺書の違いについて疑問を持っている方が多くいます。
亡くなる前に死後の為に残す言葉を『遺言』といいますが、ではなぜ遺言書と遺書の違いが出てくるのか?という事を確認していきましょう。
遺書とは
遺言を残すという意味では、遺言書と変わりはありませんが、『遺言を残す方法が自由』なのが遺書です。
遺言は紙に書いても、録音・録画でもメールでも、何らかの形で残す事ができますが、法的効力はないためあくまでも残された人へのメッセージといった位置になります。
もし、遺書の中に遺産についての詳細が記録されていても法的に定められた遺言書の書式ではないため、遺産相続には効力がありませんので、残された家族などにメッセージを残したい方は、遺言書と遺書の両方を用意すると良いでしょう
遺産相続は終活の中でお悩み相談NO.1
遺言書についてたくさんお伝えしてきましたが、遺産相続の問題は終活の中でも取り上げられるお悩み相談のNO.1とも言えます。
金銭に関することはちょっとしたすれ違いや、ミスにより思わぬトラブルに発展します。
ご覧の通り遺言書の作成には、様々な法律が絡んでおり、揃える書類もたくさんありますので、しっかりと遺言書の作成に関する知識を入れておかなければいけません。
遺言書の作成や書類集めなど相続に関して不安がある方は、弁護士などの法律家に相談するのが一番の近道です。
自分達だけで無理せずに、法律家への相談も視野に入れておきましょう。